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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)4079号 判決 1968年11月26日

原告

横井渡

ほか一名

被告

村上金筬工業株式会社

ほか一名

主文

一、被告らは、連帯して原告横井弘に対し金二〇〇、〇〇〇円、原告横井渡に対し金一一七、七五〇円、及びこれに対する昭和四一年五月一日から右支払済まで年五分の割合による各金員を支払え。

二、原告横井渡のその余の請求を棄却する。

三、訴訟費用は原告横井渡と被告らとの間においては、原告渡に生じた費用の四分の一を被告らの負担とし、その余を各自の負担とし、原告横井弘と被告らとの間においては全部被告らの負担とする。

四、この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

五、ただし被告らが各自原告横井弘に対し金二〇〇、〇〇〇円、原告横井渡に対し金一〇〇、〇〇〇円の各担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

(請求の趣旨及びこれに対する答弁)

原告らは「被告らは、連帯して原告横井弘に対し金二〇〇、〇〇〇円、原告横井渡に対し金五二〇、〇〇〇円及びこれに対する昭和四一年五月一日から右支払済まで年五分の割合による金員を各支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告らは「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求めた。

(請求原因)

一、被告村上金筬工業株式会社(以下被告会社と称する)は普通貨物自動車大阪四に四七―八一(以下本件自動車と称する)を所有し、被告西岡を雇傭してこれを運転させていた。

二、被告西岡は昭和四一年一月二二日午後三時頃、被告会社の業務に従事中、本件自動車を運転し、大阪市生野区中川町一丁目四九番地先路上を西進中、同道路の中央部を東より西へ向けて自宅へ急ぎつつあつた原告横井弘(原告横井渡の三男―当時三才)の腰部後方に自動車を突き当てはね倒して気絶させ、よつて同児に対し入院加療四五日を要する腰部座骨打撲、内出血等の各傷害を負わせた。

三、右事故は被告西岡の運転上の過失により発生した。即ち、自動車を運転する者としては、常に交通規制を遵守して運転進行すべきはもとより、常に前後左右を注視すると共に急停車方向転換等の応急措置を講ずる準備をして運転すべき注意義務があるのに、被告西岡はこれらの注意義務を怠り、同道路は東行一方通行の規制のある所なるにもかかわらず、敢えてこれを無視し、逆に東より西へ向けて運転し、且つ、同道路はかねて付近の子供達が遊び廻る所であることを知りながら、前後、左右を注視せず、応急措置を構ずる準備もせずに進行したために、原告横井弘を発見し得ず、衝突、転倒せしめたものである。

四、よつて被告西岡は直接の不法行為者として、被告会社は本件自動車の運行供用者として、原告らが右事故により被つた後記損害を連帯して賠償すべき義務がある。

五、原告らが被つた損害は次のとおりである。

(一)  原告横井渡の被つた損害

(1) 原告横井渡は同弘の受傷のために、同人を小国医院(昭和四一年一月二二日応急手当)、新大阪病院(同二二日より翌二三日診断)、生野病院(同二三日診断)、アエバ外科病院(同二三日より同年三月七日まで入院、同年九月一九日後遺症の診断)の各病院において診断・治療を受けさせ、その診療費として合計金五、三七〇円(その内訳は、新大阪病院へ金二、三一〇円、アエバ外科病院へ金三、〇六〇円)を支払つた。なお、被告らはアエバ病院入院中の費用として金一八〇、〇〇〇円を同病院に支払つたのでその分は請求していない。

(2) 更に、右アエバ外科病院入院中の諸雑費として合計金四二、九三〇円を下らぬ支出をした。

(3) 更に、右アエバ病院入院中、最初の数日は原告渡の妻美佐子が看病していたが、同人には弘の外に四児がいるので一月二六日から和歌山の美佐子の実母部谷タケノを呼び、弘が退院した三月七日までの四一日間、弘の看病をしてもらつた。タケノは和染工業株式会社の覆部下請業に勤め、平均日額九三〇円の収入をえていたので、渡は同女に対し、右付添看護の報酬として右収入の四二日分相当額の金四九、〇六〇円を支払つた(本来、四一日分でよいものを違算したものであるが、その支払額は通常の付添婦の報酬より遙かに低いものである)。

(4) 原告渡は、婦人物衣料を扱う露店商であり、本件事故当時は天理市で一月二六日から二月二八日まで開催される天理教八〇年祭を控えすでに人出も多くなり、開店準備に忙殺されるときに当つていた。

原告渡は、右の天理市の露店五百数十のうち最も地の利を得た五十店の一つを確保して、この期間に五〇〇、〇〇〇円を超える純利益を見込んでいたのであるが、本件事故による弘の負傷及びその後の判然としない病状により殆ど天理での商売に手がつけられなくなつた。しかし露店商の慣習により店を放棄し閉じることは許されなかつたので、やむなく友人の長谷川政人に依頼して一月二三日から店を続け、同人に日当合計金一〇九、〇〇〇円(一月二三日から二六日までは朝八時から六時まで一日二、〇〇〇円、一月二七日から二月二六日までは朝八時から夜一〇時まで日当三、〇〇〇円)、食費、交通費も含め合計金一三〇、八三〇円を支払つて営業を続けたが、同人が衣類の販売になれないため業績が上らず、殆ど赤字に近い状態となつて、少なくとも右の金五〇〇、〇〇〇円をこえる見込み利益を失なつた。

(5) 更に、本訴提起に当り、原告訴訟代理人に報酬として金五〇、〇〇〇円を支払つた。

以上合計金六四七、三六〇円の財産上の損害を受けたのであるが、原告渡はその内金五二〇、〇〇〇円の損害の賠償を求める。

(二)  原告横井弘の被つた損害

原告弘は本件事故による負傷のため、前記の如く各病院において、診断・治療を受けたが、本件事故直後には苦痛のために気絶し、その後も絶えず泣いて苦痛を訴え、特にアエバ病院入院後は、用便、給食等の為看護人がその体位を動かさんとすれば痛い痛いと泣き叫び、主治医も首をかしげる有様だつた処、患部が次第に腫脹するに至つたため遂に同部位を切開し化膿した内出血を排出した。この手術により痛みはやわらいだが、その後も体位を動かす毎に痛みを訴え、退院後現在においても遊び廻るうち何かの拍子に患部に触れると痛みを訴え、他の子供と遊ぶにしても患部を庇ふ為か負傷前の元気がないなど、その精神的苦痛は甚大である。

従つて原告弘の被つた精神的苦痛に対する慰謝料としては、金二〇〇、〇〇〇円を以て相当とする。

(三)  被告主張の過失相殺は争う。

被告西岡は、一方通行の規制に違反して進行したばかりか、エンジンの不調に気をとられて前方注視を怠つていたものである。このような場合、被害者側に通行規制の反対の進行車両にまで注意する義務はないし、又、原告弘は突然加害車両の前方に飛び出したものでもないうえ、本件付近の道路はかねて幼児が遊びまわるところであつたことからみても、本件事故は被告西岡の一方的過失によるものというべきであり、仮に過失相殺がなされるとしても最低限にとめられるべきである。

六、よつて、被告ら各自に対し原告弘の負傷に伴う損害として原告渡は前記内金五二〇、〇〇〇円、原告弘は金二〇〇、〇〇〇円、及びこれに対する昭和四一年五月一日から右支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

(被告の答弁及び主張)

一、請求原因一乃至三の事実のうち、道路の中央部を原告弘が東より西に向けて自宅へ急ぎつつあつたとの点、被告西岡が同人の腰部後方に自動車を突き当てはね倒して気絶させたとの点は否認するが、その余の事実はすべて認める。

二、請求原因五(一)の事実中、(2)の諸雑費支払額は争い、(3)の部谷タケノが四一日間原告弘の看病をしたことは不知・原告渡が同人に付添看護の報酬を支払つたことは否認し、(4)の得べかりし利益の喪失額は争い(5)の訴訟代理人に報酬を支払つたとの点は不知。

三、請求原因五(二)中、現在なお原告弘が患部の痛みを訴えるとの点を否認する他は同人の入院中及び退院後の状況は認める。被告らに、原告弘に対し慰謝料支払義務があるとの点及びその金額については争う。

四、本件事故は三才の幼児である原告弘に付添を付さず、道路上に遊ばしていたために発生したものである。従つて原告渡は親権者としての監督指導の責を負うべきであるのにそれを怠つたというべきであるから、本件事故発生については原告渡にも過失があり、この過失は損害賠償額の算定につつき斟酌されるべきである。

(証拠) 〔略〕

理由

一、原告主張の日時場所において、その主張にかかる被告西岡運転の自動車と原告弘の間に交通事故が発生し、右弘が原告主張のような傷害を負つたこと、右事故発生は、原告主張のような被告西岡の本件自動車運転上の過失にもとづくものであること、被告会社は、本件自動車を所有し、本件事故当時これを被用者である被告西岡に会社業務のため運転させていたことは当事者間に争いがない。そしてそうとすれば、被告西岡は民法七〇九条により、又被告会社は自賠法三条但書の免責事由の立証がないことに帰するから同条本文により、それぞれ原告らの後記損害を賠償する義務がある。

二、〔証拠略〕を綜合すると、原告渡は同弘の医療費として、新大阪病院へ金二、一三〇円、アエバ外科病院に金三、〇六〇円計五、一九〇円を、アエバ外科病院入院中の付添看護謝礼として部谷タケノに金四九、〇六〇円を、又本件訴訟代理人に弁護士費用(着手金)として金五〇、〇〇〇円をそれぞれ支払つたことが認められる。更に入院中諸雑費については、一日当り金三〇〇円程度の支出を要するのが通常と解せられるから、その入院四五日分計一三、五〇〇円の範囲でこれを支出したものと認める。

次に原告渡は本件事故のため、天理教八〇年祭により、同年一月二三日から二月二六日までの間天理市での露店営業において得べかりし利益金五〇〇、〇〇〇円を失つた旨主張するが、仮に右利益を失つた損害があるとしても、右損害は、天理教八〇年祭における営業という特別の事情によるものというべく、これを被告らにおいて予見し、又は予見し得たと認めるに足るものはないから、結局得べかりし利益として原告の損害と認めうべきものは、右特別の事情にもとづかない通常の損害の範囲に止まるものといわねばならないが、通常の損害については、証人桜井政夫の証言中に原告渡の収入は通常一ケ月一二〇、〇〇〇円ないし一三〇、〇〇〇円であると述べられているところ、右額については他に何らの客観的な資料も存しないのでにわかにこれを措信し難く、他に本件全証拠によるも右通常の損害額を認定するに足るものはない。

従つて、原告渡の本件事故による損害額は計一一七、七五〇円となる。

三、原告主張の原告弘の入院中及び退院後の状況については、同人が現在なお患部に痛みを訴えるとの点を除いて当事者間に争いがなく、これに前記のような原告弘の傷害並びにその入院期間、その他本件証拠上認められる諸般の事情を考慮すると、原告弘の慰藉料額は金二〇〇、〇〇〇円と認めるのが相当である。

四、取下前原告美佐子本人尋問の結果によると、原告弘の父母である原告渡及び美佐子は、常々子供達に道路における車両の交通に気をつけ、路上で遊んだり、路地から急に飛出したりしないよう注意を与えていたことが認められ、このことに、前記のような本件道路の規制並びに状況、被告西岡の過失の内容程度などを併せ考えると、原告渡に損害額算定上斟酌するに足る過失は認めえないものというべきである。

五、結論

以上により、被告らは連帯して原告弘に対して金二〇〇、〇〇〇円、原告渡に対して金一一七、七五〇円及びこれに対する本件不法行為発生の日以後である昭和四一年五月一日から右支払済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべきであるから、原告らの本訴各請求は右の限度で正当として認容し、その余を失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条第一項但書、仮執行の宣言につき同法第一九六条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡宜兄)

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